ナミハダニの農薬による駆除
ナミハダニは、ハダニ類の中でも特に薬剤抵抗性が発達し易く、増殖能力もトップクラスに高いため、特に薬剤防除(農薬による駆除)が難しい害虫です。多発後の薬剤防除は効果が低下するため、更なる薬剤抵抗性が発達する原因ともなります。
薬剤防除では、発生初期で6月中旬から7月下旬にかけてを重点的に実施し、薬剤抵抗性の発達が遅延する運用を行う。既存の殺ダニ剤で十分な効果がない時には有機リン系殺虫剤や気門封鎖剤による混用を行うことで駆除することができます。
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ナミハダニの発生生態
粗皮下、根ぎわ、枯草中等で雌成虫が越冬する。越冬態は明るい色に変色(通常時は淡黄・淡黄緑色)し、薬剤に対する感受性が低下(効果が低い)している。また、粗皮下等の薬剤が到達し難い箇所にいるため、薬剤による防除は難しい。
越冬した雌成虫は他のハダニ同様、3月中旬頃から活動し、7~8月の高温乾燥条件下で繁殖が盛んになります。
ハダニ類は25~28℃くらいの温度で乾燥した状態であると、10日前後(卵期間2~3日、幼虫~若虫期間6~7日)で卵から成虫になります。発生したナミハダニは、10~15世代まで繁殖し雌1匹当り100~150個産卵します。
高温乾燥条件下を好むため、気温が高い南方やハウス栽培での発生が特に深刻です。
ナミハダニに効果がある薬剤
ナミハダニに対する薬剤防除の効果は、薬剤抵抗性の発達による低下が深刻となっています。多くの殺ダニ剤が発売時に効果が確認されるも、その後と薬剤抵抗性の発達により効果が低下し現在に至っています。下表は茨城県における梨のナミハダニの感受性検定結果とその他の資料を参考にしているため、地域や対象果樹・作物により薬剤抵抗性の発達状況(薬剤効果)に差があります。
下表は参考事例に留め、更なる効果低下(薬剤抵抗性の発達状況)とならない薬剤使用が重要です。
薬剤名称 | 希釈倍率 | ナミハダニ | |
成虫 | 卵 | ||
コロマイトEW | 2,000 | △ | 〇 |
カネマイトFL | 1,500 | △ | × |
スターマイトFL | 2,000 | △ | 〇 |
ダニコングFL | 2,000 | 〇 | × |
マイトコーネFL | 1,500 | 〇 | 〇 |
ダニゲッターFL | 2,000 | -(推定×) | 〇 |
アカリタッチEC | 2,000 | 〇 | △※2 |
エコピタ液剤 | 100 | △※1 | - |
※1希釈倍率100倍での評価。200倍で効果が更に半減する。
※2希釈倍率1,000倍において59%の死虫率という試験結果あり。
略号:
WP 水和剤、FL フロアブル、WG 顆粒水和剤、DF ドライフロアブル、EC 乳剤
殺ダニと有機リン系殺虫剤の混用効果
薬剤抵抗性が発達したナミハダニに対する対策として、既に薬剤抵抗性により効果が低下した殺ダニ剤に殺虫剤を混用することで殺虫効果が高く組合せがあることが確認されています。下表は鳥取県における梨のナミハダニの感受性検定結果とその他の資料を参考にしているため、地域や対象果樹・作物により薬剤抵抗性の発達状況(薬剤効果)に差があります。
殺ダニ剤 | 有機リン系殺虫剤 | ナミハダニ雌成虫の駆除効果 |
カネマイトFL(1,500倍) | - | 約30% |
〃 | スミチオンEC | 約100% |
ダニトロンFL(1,500倍) | - | 約0% |
〃 | スミチオンEC | 約95% |
スターマイトFL(6,000倍) | - | 約60% |
〃 | スミチオンEC | 約100% |
〃 | スプラサイドWP | 約100% |
〃 | ダーズバンDF | 約95% |
〃 | ダイアジノンWP34 | 約100% |
WP 水和剤、FL フロアブル、WG 顆粒水和剤、DF ドライフロアブル、EC 乳剤
殺ダニ剤と気門封鎖剤の混用効果
薬剤抵抗性が発達したナミハダニに対する対策として、既に薬剤抵抗性により効果が低下した殺ダニ剤に気門封鎖剤を混用することで防除効果が高くなる組み合わせたあることが確認されています。下表は長崎県におけるイチゴのナミハダニの感受性検定結果とその他の資料を参考にしているため、地域や対象果樹・作物により薬剤抵抗性の発達状況(薬剤効果)に差があります。
A殺ダニ剤 | B気門封鎖剤 | 混用効果 ナミハダニ(訪虫) |
同一条件下での単剤効果A | 同一条件下での単剤効果B |
バロックFL | アカリタッチEC | 78 | 37 | 55 |
マイトコーネFL | サンクリスタル | 97 | 84 | 95 |
〃 | エコピタ | 91 | 79 | 32 |
〃 | 粘着くん | 100 | 79 | 100 |
〃 | アカリタッチEC | 100 | 79 | 93 |
〃 | フーモン | 95 | 94 | 41 |
コロマイトEW | サンクリスタル | 97 | 87 | 95 |
ダニサラバFL | サンクリスタル | 95 | 46 | 95 |
〃 | フーモン | 100 | 54 | 76 |
〃 | 粘着くん | 100 | 54 | 100 |
〃 | アカリタッチEC | 91 | 54 | 92 |
〃 | サフオイル | 100 | 54 | 100 |
〃 | フーモン | 95 | 94 | 41 |
スターマイトFL | サンクリスタル | 81 | 73 | 95 |
〃 | フーモン | 83 | 2 | 41 |
単剤で効果が高い薬剤での相乗効果は期待されな。
略号:
WP 水和剤、FL フロアブル、WG 顆粒水和剤、DF ドライフロアブル、EC 乳剤
ナミハダニに対する薬剤抵抗性発達の遅延対策
ナミハダニに対する薬剤抵抗性発達の遅延対策については、通常のハダニ類に対する対策と基本的に同様です。しかし、ナミハダニは他のカンザワハダニを含む他のハダニ類よりも薬剤抵抗性が発達し易い種であるため、ナミハダニに対する薬剤抵抗性発達の遅延に主眼をおく対策では、より厳格に遅延対策の実施する。既存の殺ダニ剤で最大の効果を得て活用することが重要となります。
・殺ダニ剤のローテーション使用を行う
気門封鎖作用の薬剤を除き、同一系統の薬剤を年1回に留める。
同一薬剤の使用では、最低2年以上の間隔をあける。
・殺ダニ剤を効果的に使用する
殺ダニ剤による防除では、薬剤効果の高い発生初期(低密度の発生時)に行う。多発後(高密度の発生時)の薬剤防除とならないように注意する。
殺ダニ剤の散布量の不足や散布ムラを原因とした生き残りが発生しないよう散布量を十分に行う。散布方法では、SSの経路選択や必要に応じて手散布の併用を検討する。
・薬剤選択を正しく行う
ハダニ類が多発発生した場合、発生したハダニの種類を見極め、ナミハダニかその他のハダニ類か確認して効果的な薬剤選択を行う。ナミハダニ以外の発生時にナミハダニ効果的な薬剤を使用し、不要に薬剤抵抗性を発達させないよう注意する。
・気門封鎖作用の殺ダニ剤の活用
薬剤抵抗性が発現し難いとされる気門封鎖作用による殺ダニ剤を活用し、他の殺ダニ剤による薬剤抵抗性の発達過程にあるハダニを駆除することで抵抗性の発達を阻害します。
また、気門封鎖作用の殺ダニ剤使用回数を増やすことで、その他の殺ダニ剤の使用回数や種類を減らし薬剤抵抗性の発達を遅延させます。
・殺ダニ剤の感受性を回復させる
殺ダニ剤のローテンション使用の間隔を長く、気門封鎖作用の薬剤や他の薬剤を活用して抵抗性を欠如させることで、既に薬剤抵抗性の発達により感受性が低下した殺ダニ剤に対して、感受性を回復(高く)させます。
感受性回復にかかる期間について、明確な研究結果はないもののハダニ類に対して同一薬剤の隔年使用で感受性が一部回復した資料があります。
同一薬剤(可能であれば同一作用の薬剤)について再使用する間隔を隔年以上にして感受性を回復させます。
主な参考資料
ナミハダニ関する各種資料です。 リンク切れがおきるため資料名を掲載しています。参考にする時は、資料名で検索下さい。資料名 | 発行元 |
殺虫剤を加用した殺ダニ剤がナミハダニの生存に及ぼす影響 | 鳥取県農林水産部鳥取県園芸試験場 |
ナシのハダニ類に対する薬剤感受性検定結果について | 茨城県農業総合センター病害虫防除部(病害虫防除所) |
イチゴのナミハダニに対する殺ダニ剤と気門封鎖剤の混用による相乗効果 | 長崎県農林技術開発センター・環境研究部門・病害虫研究室 |
・果樹のハダニ類防除
・草生管理での弊害は、カブリダニ類を活用する草生管理の問題へ
・殺ダニ剤の使用は、殺ダニ剤の薬剤効果へ
・難害虫のナミハダニは、ナミハダニの農薬による駆除へ